待ち人・和泉

刑務所に入っている深友を、待っています。

今日も来なかったなぁ

連休前、最後であろう配達日。

手紙、来なかったなぁ……。

やっぱり、連休明けになるのかな。

正直、淋しい。

けれども、彼は月に4通しか手紙が出せない。

刑務所の決まりなのだ。

4通のうちに入れなかったのかな、

と思うと、淋しくなるが、

彼には他にも待ち人がいてくれているのだ。

と思えば、淋しくもならない。

彼にとっては、いいことだ。

なんて、自分を言い聞かせている。

待ち人日記

2019年4月15日、月曜日。

私はこの日を忘れないだろう。

とても、とてもよく晴れていた日で、

桜吹雪の中、私は親友の彼に告白をした。

彼に対する自分の想いに気付いたのは、

彼が刑務所に行ってしまうことが

分かってからだった。

彼が刑務所に行くのは、4月16日。

そう、彼が旅立つ前日に、

寄りにもよって告白してしまったのである。

彼は実刑が決まってから2週間、

泣くのを堪えながら、私に笑って接していた。

自分のことでいっぱいいっぱいだったと思う。

それを知っていたのに、私は、

自分の我儘で、彼に気持ちを伝えてしまったのだ。

ありがとう、と彼は言った。

「告白されたのなんか、何年ぶりだろう。」

彼は、少し笑って、桜を見上げた。

彼には、妻子がいた。

今回の逮捕で、離婚が決定し、

子どもとも離ればなれになってしまった。

逮捕されてから、一度も会っていない。

どれほどつらいかなんて、

子どものいない私には想像がつかない。

離婚はしてしまったけれども、

きっと、彼の元奥さんも『待ち人』になっている。

だから私は、親友、もとい、「深友」として、

彼を待とうと思っている。

私の気持ちは伝えてしまったけれども、

「棚上げしよう」と、ふたりで約束した。

それより、彼にはやることが沢山あるし、

私も彼の重荷にはなりたくない。

私にできることは、「待つ」ことだけなのだ。

手紙を書くよ、と言われたので、住所を渡した。

「親友」として、登録してくれると言う。

刑務所に入って手紙を書く際は、

相手の住所、名前、関係の登録が必要なのである。

そして、駅で別れた。

最後に、「深友」としてハグをした。

「泣いちゃうから、もう行くね」

と言って立ち去る彼の背中に、

「泣いてもいいんだよ!」

と、それこそ泣きながら呼びかけた。

振り返った彼の顔は、

目を真っ赤にして、泣き笑いの表情をして、

ずーっと手を振ってくれた。

私もきっと、泣き笑いの表情で、

手を振っていた。

彼の姿が見えなくなるまで。

この時の彼の顔は、一生忘れないと思う。

今日で彼が刑務所に入って、

ちょうど10日目である。

私にできることは、「待つ」ことと

「手紙を書く」こと。

だがしかし、向こうから手紙が来ないと

何処に送って良いかもわからない。

今は、「待つ」期間。

こちらも、手紙の準備をしている。

生まれて初めて、万年筆を買ってみた。安物だけど。

買ってから毎日、何かしら書いて

万年筆の練習をしている。

今日は、レターセットを買ってみた。

ネット情報だから本当かはわからないけど、

刑務所の中の娯楽は、手紙か本くらいしかない

と、様々なサイトで書いてあった。

なんて所だ、刑務所!!

私の手紙が、彼の救いになればいいな、と

烏滸がましくも思っている。